





- 内容・目次
- 内容
- 2025年日本建築学会大賞受賞後初の著作!
- 人類は数万年をかけて、地上のあらゆる場所を居住可能な空間につくり変えてきた。その歴史の圧倒的大部分、産業革命以前の建築は、地域で産出される自然材料を使って地域の気候風土に即して建てられ、やがて朽ち果てて自然に帰っていった。建築は、地球の生命サイクルの一部だったのだ。
- ところが、鉄とガラスとコンクリートによる近代建築は、超高層ビルを生み出し、世界中の都市の景観を塗り替えてしまった。
- 今や世界の総人口は80億を超え、温暖化をはじめとする地球環境の限界(プラネタリー・バウンダリー)が人類のあらゆる営みに影を落としている。中でも、世界のCO2排出量の37%は建築的営為によるものとされる。
- 建築に未来はあるのだろうか?
- “本書で問うのは、地球環境の限界を前提とした上で、住居、建築、近隣住区、地域社会、都市空間、国土、そして世界全体の空間デザインのあり方である。焦点を当てるのは1980年代末から現在に至る1990年代以降の建築のあり方、建築家の役割、その作品(実践)そして建築生産体制である。”(序章より)
- 20世紀後半以降の世界中の建築と都市計画の展開、名だたる建築家たちの業績を鋭く跡づけ、建築の明るく豊かな未来の在り処を展望する。
- 半世紀にわたり世界を駆け巡ってきた著者にしか書きえない、博覧強記の現代建築批評!
- 【著者略歴】
- 布野修司〈ふの・しゅうじ〉
- 日本建築学会終身会員。滋賀県立大学名誉教授。1949年、松江市生まれ。工学博士(東京大学)。建築計画学、地域生活空間計画学専攻。東京大学工学研究科博士課程中途退学。東京大学助手、東洋大学講師・助教授、京都大学助教授、滋賀県立大学教授、副学長・理事、日本大学特任教授・客員教授。「インドネシアにおける居住環境の変容とその整備手法に関する研究」で日本建築学会賞受賞(1991年)、『近代世界システムと植民都市』(編著、京都大学学術出版会、2005年)で日本都市計画学会賞論文賞受賞(2006年)、『韓国近代都市景観の形成』(共著、京都大学学術出版会、2010年)と『グリッド都市:スペイン植民都市の起源、形成、変容、転生』(共著、京都大学学術出版会、2013年)で日本建築学会著作賞受賞(2013年、2015年)。「アジアの視座からの世界住居・都市研究の飛躍的発展ならびにタウン・アーキテクトの研究・実装に関する多大な貢献」で日本建築学会大賞受賞(2025年)。
- 目次
- 序章
- 第Ⅰ章 縮退する日本建築――成長神話の亡霊
- 1 失われた30年――日本社会の劣化・分裂・格差・衰退
- 2 揺れる日本列島――ヒロシマからフクシマヘ
- 3 祭師たちの国土計画
- 第Ⅱ章 グローバリゼーションと建築家――超高層建築と世界資本主義
- 1 バブルの余韻
- 2 世界資本主義とバブルの塔
- 3 ポストモダン建築と国際「建築マフィア」
- 第Ⅲ章 メガロポリスと人間居住――アーバン・ヴィレッジ
- 1 メガ・アーバニゼーション
- 2 近代都市計画の終焉
- 3 ローコスト・ハウジング
- 第Ⅳ章 環境共生建築――リサイクルとリノヴェーション
- 1 地球温暖化と近代建築
- 2 グリーン・アーキテクチャー
- 3 建築の保存・保全・修復・変換・更新・改修・リサイクル
- 第Ⅴ章 コミューンとコミュニティ・アーキテクト――建築家の未来
- 1 「建築家」の理念と現実
- 2 公共建築と設計コンペ
- 3 マスターアーキテクトとデザインビルド
- 4 タウンアーキテクト――幻のアーバン・アーキテクト制
- 5 コミュニティ・アーキテクト
- 結章 自律建築をめざして

- あとがき
- 2度のオイルショックに見舞われた1970年代の10年,筆者の20歳代は,時間があると建築学科の図書室に入り浸って,建築雑誌のバックナンバーをひたすらコピーしていた。『建築雑誌』(1887~) 『建築世界』(1907~1944.08)『朝鮮と建築』(1922~1944)『新建築』(1925~)『国際建築』(1928~1967.6)『臺灣建築』(1933~1944)『建築文化』(1945.04~2004.12)『建築知識/エクスナレッジ』(1959~)『建築』(1960~1975)など,造家学会(現日本建築学会)の設立(1877)に遡って興味深い記事を読みふけった。今でも思い出すが,コピー用紙は厚くて,定着時の加熱によるトナーのアンモニアガスのような独特な臭いがした。しかも,光や熱で退色し,数年で読めなくなって,何のために膨大な時間を費やしたのか!と愕然としたことも思い出す。
- それから半世紀,ChatGPT5を使えば,古今東西,ホモ・サピエンスが考えてきたことは一瞬に検索できる。驚くべきことに,オンライン上にあるテキストデータは2026年には枯渇するという。ChatGPT5は,数学やコード生成の精度が向上し「ハルシネーション(幻覚)」と呼ばれる誤解答が減るということだったけれど,かなり疑問である。使うのであれば,必ず,「ほんとうか? え,これはどうなの?」と、重ねて聞き返すのが原則である。
- 『戦後建築論ノート』(1981)を上梓することになったのは,『建築文化』誌の「近代の呪縛に放て」というシリーズ企画(1975~77)(田尻裕彦編集長・野崎正之)にコアスタッフ(伊東豊雄・北原理雄・富永譲・長尾重武・布野修司・八束はじめ)として参加を求められ,その最後に「特集/建築調書1960-75」(1977年10月)という特集を任され,巻頭論文として「60年代への葬歌」という論考を書いたことによる。特集は,「黄金の60年代<Golden 60>」と言われる日本の戦後建築を検証するために詳細な年表を作成し,様々な角度から分析を加えた。図書室通いはこの作業のためでもあった。
- 巻頭論文を読んで一冊書くようにと勧めてくださったのは,編集者の神子久忠(当時 相模書房)さんである。月に1,2度,池袋の喫茶店で会って,多くのアドヴァイスを受けた。本論で記しているから詳細は省くけれど,『戦後建築論ノート』は,基本的には書かれた歴史の総括である。だから「ノート」である。もちろん「書かれたもの」のみに依る文献研究であったわけではない。『同時代建築研究会』(宮内康・堀川勉・布野修司 井出健・松山巌・千葉政継他1976~1992)での議論、シンポジウム、インタビューがベースになっている。高山英華先生など「書かれた歴史」に登場する著名な建築家に何人も話を聞く機会があった。「戦後建築」と題したけれど,視野に入れていたのは明治以降の日本の近代建築であり,戦前・戦後の連続・非連続の問題であった。「戦後建築」が目指したものを明治維新に遡って確認した上で,その行きついた1960年代の建築のあり方について疑問を呈したのである。
- 『戦後建築論ノート』の執筆と並行して,「東南アジアにおける居住問題の理論的実証的研究」(磯村英一・前田尚美・太田邦夫・上杉啓・内田雄造・布野修司他,1978ー83)をきっかけに,1979年1月以降,今日に至るまでアジアを中心に世界を歩くことになった。一気に世界が拡がり,日本の「戦後建築」の歩みを発展途上地域の居住問題と重ねて考えることになる。インドネシアのスラバヤでフィールド調査を行うことにしたが,居住問題については世界的に知られるジョハン・シラス(1936~)という建築家に出会ったことが大きかった。筆者は、日本の戦後住宅を大きく規定した51C(公営住宅1951年C型≒2DK)を設計した吉武泰水・鈴木成文研究室の出身なのである。
- 世界が拡がるという意味では,地域研究,フィールドワーク調査の手ほどきを受けた京都大学東南アジア研究センターの高谷好一,立本成文といった先生たち,そして「イスラームの都市性」の研究会(主査 板垣雄三)で出合った先生方には,建築,都市をより広い視野で考える様々な視点について学んだ。なかでも,世界110ヶ国以上歩いたという希代のフィールドワーカー応地利明先生とは「植民都市研究」を一緒に展開することになり,フィールドをともにしながら随分教わった。オランダが世界中に建設した植民都市を中心に,世界周航を2度も行う機会を得た。
- 1980年代におけるほぼ10年のアジア研究を学位論文『インドネシアにおける居住環境の変容とその整備手法に関する研究ーーーハウジング計画論に関する方法論的考察』(1987)にまとめた頃,「平成バブル」が胎動しつつあった。続いて冷戦構造の崩壊による本格的グローバリゼーションの時代が開始され,その途端,日本の「平成バブル」は弾けた。本書が解き明かそうとしたのは,以降,現在に至る「世界の中の日本の建築そして都市」に焦点を当てた様々なプロブレマティークである。そして,建築と都市の根源的な在り方とその未来である。
- 1990年代以降の30余年は筆者にとって「書かれた歴史」ではない。「生きられた歴史」であり,自分史と重なり合う。本書に記したことの多くは,直接見聞きし,体験してきたことである。結論を含めて,本書の視点,見解は個人に属する。ただ,そこには上に挙げた先生方のみならず,尊敬する師,すぐれた同僚,元気で意欲的な学生たちとの日常的な議論が反映されていることは言うまでもない。本書を構想するに至った理由のひとつは,様々な建築活動を評価し,アーカイブしていくメディア(建築雑誌)が次々と廃刊となり,批評の場が失われていったことである。『戦後建築論ノート』の著者が,1981年以降の建築と都市の歴史をどう考えてきたのかを記しておくことは,ささやかであれ,意味があるのではないかと考えたのである。
- 本書の執筆に先立って,安藤忠雄,藤森照信,伊東豊雄,山本理顕,石山修武,渡辺豊和,象設計集団,原広司,磯崎新の軌跡を追いかけた『建築少年たちの夢』(2011),若手建築家25人をとりあげた『進撃の建築家たちー新たな建築家像をめざして』(2019),1990年代以降の日本の住宅50をとりあげた『はてしなき現代住居 1989年以後』(2024),自律分散型の自治体ネットワーク『希望のコミューン 新・都市の論理』(2024)などを上梓した。言及のみで省いたが,それでも本書は分厚くなった。とにかく,建築と都市をめぐって,本書で取り上げたような出来事,事実,論争などを踏まえて議論して欲しいという思いからである。本書によって,建築と都市の未来をめぐって,豊かな議論が巻き起こることが心よりの願いである。

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