循環型の社会へ一戸の住宅から 石井の家 見聞録02,共同通信,200008

見聞録02

 石井の家 徳島県名西郡石井町

 設計 新居照和・ヴァサンティ

 写真 北田英治 

  循環型の社会へ  一戸の住宅から

 四国山地と讃岐山脈に挟まれ、吉野川はゆったりと西から東へ流れている。徳島は、第十堰問題で揺れているけれど、流域にはのどかな田園風景が広がる。そんな中にこの瀟洒な住宅は建っている。

 黒い壁に銀色の屋根、真っ赤な玄関、二階の大きな窓、一際目立つ。しかし、他を圧して自己主張しているわけではない。むしろ、辺りの風景に溶け込んで見える。緩やかに沿った屋根は後ろの山並みを明らかに意識したものだ。垣根がないから実に開放的だ。

 二階まで大きく吹き抜けた居間が気持ちいい。大きな窓は雄大な山並みを毎日楽しませてくれる。極めて原理的な架構、木の床、天井に白い壁、中に大きく湾曲した朱色の壁のアクセント。近代建築正統の手法だ。全体に無理がない。

 それもその筈だ。設計者の新居照和・ヴァサンティ夫妻はアーメダバードのB.V.ドーシのもとで学んだ。巨匠ル・コルビュジエに師事したインド第一の建築家である。

 新居照和は、一方、インドで自然と人間の関係を徹底的に学んだという。この住宅の第一の主題も自然との関係である。第一に、地場産材の利用がある。黒い外壁は、安価で丈夫な地場産の焼杉である。第二は、資源の再利用である。アプローチは古い家の基礎石を組み直したもだ。第三は、合併浄化槽の使用である。浄化槽を通った水は庭の池に導かれ、蓮やメダカなどの生物を生育させ、農業用水へと流される。自らの敷地から可能な限り汚水を出さない。敷地内で、地域内で循環系を確立する、一個の住宅から、というのが新居の主張である。吉野川流域に既に数軒の作品が建つが、この理念は共通である。

 インドと日本の風土は大いに異なる。地域に相応しい表現という意味ではさらに試行錯誤が続くであろう。夫妻は第十堰問題にも積極的に取り組んできた。地域の自然があって建築なのであって逆ではないのである。

 

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