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自然素材の魅力 誰でも建築家になれる 建築探偵の佳作,見聞録11,共同通信,200105

見聞録11

  自然素材の魅力   誰でも建築家になれる

 建築探偵の佳作

熊本農業大学校学生寮 

 熊本県

 設計 藤森照信+入江雅昭+柴田真秀+西山英夫共同体

 

 布野修司

 全体は懐かしい木造校舎のようだ。工事の時の残土を積み上げた小さな丘の割れ目を抜けると、生木の皮を剥がしただけの木が5本、入口の庇を突き抜けて建っていて、不思議な雰囲気を醸し出している。手作りの雨樋が楽しげだ。仕上げ材料は基本的に木と土、布と縄である。照明器具など、随所に手作りの味がある。自然(生物)材料を徹底的に用いる、というのがこの建築の方針である。

 設計者は建築探偵、藤森照信をチーフにする地元の建築家共同体だ。熊本アートポリス事業として藤森が選ばれ、この建築のために地域の精鋭が招待されたユニークな試みだ。自宅「タンポポ・ハウス」の設計で建築家としてデビューして以来、藤森の作品は数作になるが、自然材料を基本とするのは一貫している。

 工業材料が溢れ、世界中が同じような建築物で埋め尽くされる中で、可能な限り生の素材を使おうという単純な主張は、素朴な共感を呼んでいるように思う。しかし、実際は大変である。生木は捻れ、割れ、容易に人の言うことを効かないのである。現場は悪戦苦闘である。普通の建築家であればクレームに耐えられないかもしれない。

 しかし、出来上がった空間は絶妙だ。圧巻は食堂である。無骨な生木が林立して森のようだ。さすが当代の目利きの作品だと唸った。建築がうまくなるためにはとにかく建築を見てまわることである、とつくづく思う。  建物を上から見ると、インベーダーゲームのキャラクターのようで、異世界から舞い降りたかのようだ。建築の訓練は受けたといえ、藤森の本領は建築史であって、建築のプロから見れば素人である。この建築はおよそ洗練とか、熟練とかからは遠い。下手くそといってもいい。しかし、出来上がった空間には建築の原点に関わる迫力がある。素朴に建てよ、誰でも建築家であり得るのだ、そんな藤森の声が聞こえるような気がしてくる。

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