骨太の建築 斜めの空間 新たな空間を生み出そうとする悪戦苦闘 デコン(破壊)派の傑作!?,見聞録13,共同通信,200107

見聞録13
骨太の建築/斜めの空間
新たな空間を生み出そうとする悪戦苦闘
デコン(破壊)派の傑作!?
大方あかつき館(上林暁文学館)
高知県幡多郡大方町入野2294
設計 團紀彦 建築設計事務所
布野修司
この白い異形の大方あかつき館は、図書館、ホール、ギャラリーそして上林暁文学館からなる複合施設だ。上林暁は最後の私小説作家と言われる。本名徳廣巌城、高知県幡多郡田ノ口(大方町)に生まれ、東大の英文科で学んだ。一九三二年に「薔薇盗人」でデビュー、戦後『春の坂』で芸術選奨、晩年は脳溢血で寝たきりになりながら、左手で書き続けた。記念館には字というか絵というか、模様のような記号で綴られた原稿が展示されている。
設計したのは先頃父君團伊玖磨を亡くした團紀彦である。毛並みのいい芸術家二世が不撓の作家に挑んだ、個性豊かな建築が個性豊かな文学者に捧げられたそんな作品である。
全体は巨大な船のように見える。海が近いせいだ。いきなりの大階段を上ると甲板のような屋上広場が設けられているせいでもある。それにしても変わっている。屋根も壁も斜めで水平垂直の線がない。不思議な、日常体験しない内部空間は新鮮である。
四角四面の近代建築には飽きたとばかりに建築の表面を装飾や歴史的様式で覆ったのがポストモダン建築である。そこに新たな空間の提示は必ずしも無かった。だからであろう、バブル崩壊とともに飽きられた。しかし、この建築は一味違う。ここには折り込んだり、捻ったり、傾けたり、新たな空間を生み出そうとする悪戦苦闘がある。
日本の建築界全体がそつない綺麗なガラスの箱に回帰していく中で、この悪戦苦闘は微笑ましい。若々しいというべきか。目指すのは小手先の操作ではなく力強い空間である。これだけ複雑な構成をとると、ここそこにデッド・スペースが出来るのであるが、大きな破綻はない。コンピューターではなく、模型をつくる。つくっては壊す。その繰り返しの検討が味のある空間を生んでいる。
ディテールや空間構成に多少粗いところがあっても骨太の建築がもっと欲しい。近代建築を超える試みに停止はない筈である。




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