巨大な「箱」に多様空間 はこだて未来大学,見聞録19,共同通信,20020201

見聞録19

 簡素で徹底した建築技術の表現

 ガラス張りの大学

 情報技術を駆使する自在な空間

 公立はこだて未来大学

 設計:木村俊彦設計工場+木村俊彦構造設計事務所

 函館市亀田中野町

布野修司

なんともうらやましい大学である。まさに未来大学という名に恥じない。全ての教室の全ての机にコンセントがあり、インターネット用のジャックがついている。学生はノート・パソコンを持って移動すれば、教科書も参考書も要らない。教師も教材用にプリントを用意する必要はない。学生は黒板代わりの画面をそのままダウンロードすればいいのである。旧態以前たる教室で、講義のために毎回スライドやオーバー・ヘッド・プロジェクターを用意するのに四苦八苦している身には実に刺激的であった。

しかし、それだけではない。以上の情報メディアの問題であれば早晩全ての大学がそうなるであろうし、多くの大学で既に情報技術は教育研究に駆使されている。過激なのは全ての研究室がガラス張りであることだ。大学の研究室といえば蛸壺と言われたイメージは全くない。スタジオやアトリエ、ラウンジ、モールなどは巨大な吹き抜け空間に一体的に配されており、明るい自然光が差し込んでくる。そして、いつでもどこでも眼前に函館山の全容を望むことができる。絶好の立地である。

建築は巨大な箱だ。極めてわかりやすい。一律一二・六メートル四方という柱間にトリプルTスラブと呼ぶプレキャスト(予め工場で作った)の床を架けるだけだ。工期の短縮を絶対的条件としたための架構方法の選択である。全体を手掛けたのは埼玉県立福祉看護大学(要確認)で芸術院賞を受けた山本理顕、今、脂が乗り切っている建築家のひとりである。単純な架構の中に、高低、広狭、開閉、明暗、・・実に多様な空間を作り出し、全体を通じて破綻がない。

そして、構造計画を担当したのは木村俊彦、日本を代表する構造デザイナーのひとりだ。その簡素で徹底した技術の追求には、全てが乏しかった戦後まもなくの建築家たちの初心を思い起こさせる。木村は、テクニカル・アプローチを標榜し、戦後の建築界をリードした前川國男設計事務所の出身である。

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