RA協議会第3回年次大会Hー1「人文・社会科学系研究の特性と強みのアピールについて考える」稲石奈津子・森下明子:布野修司「研究業績としての書籍 社会貢献としての書籍」・鈴木哲也・あわぎんホール(徳島市)20170829

 布野修司

 建築学は、日本では工学系に分類されるが、建築史、建築意匠、建築計画など人文・社会科学系に関わる諸分野を含んでいる。そうした諸分野は、工学系(自然科学系、理学系)の諸分野によって、その存在基盤を問われてきた。あるいは、建築学における工学系諸分野すなわち、

 建築学は、人文・社会科学系と自然科学系、理工学系との間のパラダイム(研究業績、社会貢献に対する評価システム)の差異を内部に孕んでいる。そうした建築学を出自とする立場から、また、小規模な公立大学で研究評価担当理事を務めた経験を背景として、研究者にとって、書籍を書く意味、位置づけについてメモしてみたい。 

 0 建築学という「学」の特性

   ・Architectureの語源は、アルケーArchéのテクネーtechné 根源的技術

   ・「建築」は翻訳語 「造家」 建築と建造物 Architecture vs Building の差異

       →この差異を一般に説明すること

      ・建築学は「学」たりうるか? 

     学の体系性、学の固有性(固有の方法)、学の実践性…学の全体性!

     「学」の成立根拠は?

       →建築の全体性を説明すること

   ・建築学会があるのは、日本(中国・韓国)のみ? 

     インターナショナルには、建築家協会という職能団体 国司建築家連盟UIA

   ・日本建築学会は、学術・芸術・技術の統合をうたう

    その設立当初は、職能団体であり、日本工学会から、早くに脱会している

   ・建築学科は、欧米では、人文系(芸術・美術系)の大学、学部、学科に属する。

    日本では、一般的に工学部に所属する。

       →建築は「学」のうちに自閉しない、自閉できない

    日本では、建築は、殖産興業の旗のもと、絵画、彫刻など芸術、美術の諸分野も含   めて、工学の枠組みを出発点としてきた。

       →建築は「工学」のうちに自閉しない、自閉できない

   ・今日の「建築学」なるものが成立するのは1930年代

     建築構造、環境工学、建築計画、建築史・意匠からなる。

       →建築学の歴史は、専門分化の歴史である

   ・建築は実際に建てることによって評価される PDCAサイクルをもっている。

   

 1 何故、書籍出版(に拘ってきたの)か

 1 建築学会の論文のフレーム、フォーマットが「人文・社会科学系」に合わない。

   工学系の、問題を限定し、その範囲で問題を解く、というスタイルがなじまない。

   建築現象は多様である。建築は、自然・社会・文化・経済・政治生態学の表現である。

   ←一元的に解けない。そもそも問題設定そのものが問題。

   エンジニアリング系の論文も、設定を変えると意味をなさない場合がある。

   →個別論文で、示せない、研究の全体フレームを示す必要がある。

    『ムガル都市』『曼荼羅都市』における三都市比較(三角測量) 比較研究

          布野の「右手・左手」論左手で論文、右手で書籍(建築設計、アクション)

      本を書かないとバランスがとれない。

 2 研究成果の公開→社会的意義(アリバイ)のアピール→研究費の獲得→

   研究成果を「論文数で測る」エンジニアリング系対策:

   2~せいぜい数人のレフェリーの評価vs専門分野を超え公共に開かれたチェック

   研究費獲得のための実績。専門分野を異にする研究者へのアピール

 3 多ジャンルへの挑戦 他分野からの評価を力に変える

 4 研究の総括・記録 大きな研究プログラムの提示 

   社会実装 社会貢献

   

  

 2 書籍をどう評価するか? 書籍はどう評価されるか?

  書籍をどう評価するか?

  学術書か非学術書か、誰がどう判定するのか?

  レビュー・システムは如何に可能か? ピア・レビュー

  工学系の諸分野で書籍の評価は極めて低い(極端に言えば零)

  書籍は、教科書、基準書、マニュアル書扱い 研究書とは認められない。

  書籍出版は、研究者の余技、アルバイト、印税収入獲得手段 

  売れれば売れるほど、本業をさぼっている、とみなされる。

   

  評価システムの構築

  1 各種出版賞、著作賞などの顕彰制度

  2 研究成果公開促進補助事業他、出版助成事業

  3 大学出版会の出版事業

  4 研究評価(書評)メディア 科研費NEWS 

  5 各大学、研究機関における多様な評価システム 相互評価システム

  

 →日本建築学会に著作賞創設

 →作品選集 作品選賞 創設

 →

 3 社会貢献としての書籍とは?  人文・社会科学系研究の特性 強味とは・

   学の実践性→世界の存立構造を解く

         社会へのインパクト 概念提示 切り口の提示 方法の提示 

   全体志向  ディテールに世界を見る 専門に閉じない 

   多様な視座 多元思考

   学際性 領域横断性

   批評性 

   

 4 メディアの必要 媒介者 エディター

   学会誌、専門誌を超えたメディアの必要性

   既存のメディアの絶えざる革新 学士院 Proceedings of Japan Academy 

 →日本建築学会に「建築討論委員会」創設

 →JAABE創設 Journal of Asian Architecture and Building Environment

  アジア建築論集、

  ISAIA International symposium of Academic Interexchange in Asia

 →traverse 建築学研究

 現状の打開と創造をRAと学術諸セクターの共同で

鈴木哲也

1 研究評価/学術コミュニケーションの問題点の中から改めて書籍の役割を考える

 1)「論文数で測る」評価の問題点と実態

・実は読まれない学術論文(Hamilton 1991)

・狭隘化する,論文中心の学術コミュニケーション(Evans 2008)

・「1ドルも1円も1ウォンも全部同じ1」と計量するかのような,単線的・短絡的な研究評価(日経新聞2017年4月26日)

 2)本とは本来どういうメディアか

・布野先生の『東南アジアの住居』の目次と文献リストから

       内容と,想定されている読者の拡がり

                            人類進化,生態史,社会史,思想史から都市空間論,住居論,建築論へ

2 しかし,実際の研究・教育状況は? そして「学術書」は?

 1)極端に専門化・狭隘化した教育・研究状況

 2)最近の若手研究者の単著の実際

・同じ建築・住空間論の受賞作から,目次と文献リストを比較してみると……

 3)正直,社会の「歴史観」を作っていない歴史研究(D’Arms, JH 1997)

                            →書籍の「見え方」の違いの一因がここにある

3 書籍の<技法>と研究評価の<技法>

 1)『学術書を書く』を何故書いたか

・「二回り,三回り外に向けて書く」発想で,主張の仕方インパクトは大きく違う

・少しの工夫で,見違えるほど,リーダビリティは上がる

 2)専門外へ,論理をもって伝えるための「技法」は学術書だけの課題ではない

・いわゆる「ポンチ絵」ではないプレゼンテーション

4 今必要なのは<媒介者>

 1)本当の意味の国際感覚,現実感覚と,研究領域ごとに異なる文化を知る

・「大学ランキング」の実態と問題点

・「1ドルも1円も1ウォンも全部同じ1」とはならないために

 2)異なる領域を結びつける<技法>を知る

 3)媒介者は,様々な場所に必要

・出版,広報,図書館 だけでない,実はほぼ全部門に必要

高エネルギー実験物理学の研究現場から

Measurement of the CP Violation Parameter sin2φ1 in B0d Meson Decays(Physical Review Letters 86: 12)

 4)系統的な育成が必要

・媒介者人事の在り方

・主業務としての「繋がる学び」

5 現状の打開と創造をRAと学術諸セクターの共同で

布野修司

RA協議会第3回年次大会

H-1:人文・社会系支援「人文・社会科学系研究の特性と強みのアピールについて考える」

2017/8/30 11:00-12:40

 研究業績としての書籍 社会貢献としての書籍

   全ての研究者は、書籍**を出版せよ!?

   *人文・社会科学系研究者

**学会誌以外のメディアに情報発信(アピール)せよ

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