住居の起源

住居の起源
布野修司
これまでのやりとりを振り返ります。必要ないと思いますが,こちらでも記録しています
「Q 原人ホモ・エレクトゥス、旧人旧人類(英語: Archaic humans)、ホモ・サピエンスの遺伝子構成の違いを教えてください。」という質問から始まりました。
その問いで「ホモ・サピエンスは、ネアンデルタール人と何が遺伝的に違ったから、これほど強力な象徴・概念・言語・文化の蓄積能力を獲得したのか?」についていくつかの情報とサジェスチョンを頂きました。
1 ① 脳の発達速度 ② 神経細胞の接続様式 大脳皮質の発達 ④ 言語・発話に関わる神経回路 ⑤ 社会的認知 ⑥ 記憶・学習能力 ⑦ 遺伝子発現を調節する領域などの違いが調べられている。
2 ネアンデルタール人とホモ・サピエンスの遺伝子差のうち、脳・言語・社会認知に関係するものだけを取り出し、FOXP2、SRGAP2、ARHGAP11B、NOTCH2NLなどを軸に、①遺伝子、②脳、③言語、④象徴、⑤概念、⑥文化の進化を一本の系譜として整理することができる。
3 特に⑦が重要で、「どんな遺伝子を持っているか」より、「同じ遺伝子をいつ、どこで、どれだけ働かせるか」が問題である。
4 遺伝子進化 × 脳進化 × 文化進化という三段階で考える必要がある。すなわち,遺伝子→脳の構造・発達→神経回路→認知能力→コミュニケーション→言語→象徴・概念→文化→社会的学習→さらに複雑な認知能力
5 ホモ・サピエンスを特徴づける能力について
発声・ジェスチャー→ 他者との意図の共有→ 記号→ 言語→ 概念→ 物語→ 規範→ 制度→ 共同体→ 都市という連鎖として見ることができる。
といったことだったと思います。
それに対して,何故、ホモ・サピエンスの起源を問うかについて、問題意識(推察していただいてることは応答からわかります)を述べた上で、以下を質問しました。まずは、その応答をめぐって聞きたいと思います。
住居を建築する能力は、ホモ・サピエンスに固有ではないですか?以下について見解を教えてください。
1 チンパンジーは一定の住居を造ることはない。樹上に樹木の枝や葉を使って巣を造るが,毎晩場所を変えて造り直す。基本的には自然を棲家としている。建築する能力、空間を創り出す能力はホモ・サピエンスのみが獲得した能力である。
·2 巣をつくる生物は,モグラ,ホリネズミなどの哺乳類の他,両生類,魚類,爬虫類,鳥類をはじめ,昆虫,蜘蛛,ウニ,甲殻類など多数にのぼる。しかし,ホモ・サピエンス以外の生物の巣作りは、遺伝子によってプログラム化されており,その経験をもとに、新たな建築空間形式を創り出すことはない。
3 建築する能力すなわち人工的に空間を創り出す能力は,ヒト科Hominidaeの進化の過程で,ホモ・サピエンスのみが獲得した能力である。建築する能力とは,予め空間をイメージする能力,二次元の図面(絵,表象)として表現する能力,世界を抽象する能力である。
答えは以下でした。
はい。これはかなり重要な論点だと思います。ただし、結論からいうと、「建築する能力はホモ・サピエンスだけが獲得した」という命題は、現在の考古学・人類学の知見からは成立しません。
むしろ、先生が本当に問題にされている「建築」を少し厳密に定義し直すと、非常に面白い議論になります。
この議論を続けます。問題は「建築とは何か」です。まず、
Q1 「建築する能力はホモ・サピエンスだけが獲得した」という命題は、現在の考古学・人類学の知見からは成立しません。ここで非常に重要な反例があります、といいますが,ブルニケル洞窟は、建築ですか?約17万6500年前の構造物が発見されていまて、ホモ・サピエンスではありません。ネアンデルタール人です、といいますが、Natureの記事はストーンサークルではないかと言っています。
Nature ハイライト:ネアンデルタール人が作った古代の石筍サークル | Nature | Nature Portfolio

https://www.natureasia.com/figures/75744.jpg
人工的に空間を構成しているといいますが,ここに空間がありますか?洞窟の中で直径約6~7mの空間をつくる必要がありますか?火を使えば、雨露はしのげるのでは? しかも2026年の研究でも、ブルニケルの洞窟入口の形成過程が再検討され、この構造物とネアンデルタール人による洞窟深部の組織的利用についての理解がさらに補強されています。したがって、「空間を人工的に組織する能力=ホモ・サピエンス固有」とは言えません。
←これを具体的に教えてください。
オルドヴァイについては、風よけであったという説を知っていますが、具体的に図写真があれば教えてください。
建築する能力という時、雨露、温度調節を可能にするシェルターの構築が最初の定義です。風よけも入っていいかもしれません。
Q2 巣と建築を区別する必要があると言いますが、ホモ・サピエンスにとって巣は住居です。チンパンジーは巣をつくると言いますが、基本的に樹上じゃないですか?再利用することは明らかになっていますが、問題は、定住するか、移動が前提かではないですか? 定住革命が先か、農耕革命が先か、という議論がありますが、採集狩猟生活のホモ・サピエンスの原型、分かれば教えてください。
Q3 巣をつくる生物は,モグラ,ホリネズミなどの哺乳類の他,両生類,魚類,爬虫類,鳥類をはじめ,昆虫,蜘蛛,ウニ,甲殻類など多数にのぼる。しかし,ホモ・サピエンス以外の生物の巣作りは、遺伝子によってプログラム化されており,その経験をもとに、新たな建築空間形式を創り出すことはない。
この遺伝子的にプログラムされている、というのではないとすれば、モグラ,ホリネズミなどの哺乳類の他,両生類,魚類,爬虫類,鳥類をはじめ,昆虫,蜘蛛,ウニ,甲殻類などの巣は、どうしてつくられるのか、教えてください。
いろいろ聞くと、議論が拡散しますので、まず、以上、Q1~3お願いします。
Q1 「建築能力」を単に「人工物をつくる能力」と定義してしまうと広すぎるのです。鳥の巣もビーバーのダムも入ってしまう。先生が問題にされているのは、もっと限定して、建築=自然環境のなかに、人間が意図的に、雨・風・寒暑などを制御するための人工的な居住空間=シェルターを構成すること、と定義するのがよいと思います。
Q1 ブルニケル洞窟は「建築」なのか
結論から言うと、ブルニケル洞窟は「建築の起源」を考えるうえで非常に重要な例ですが、先生のいう「住居としての建築」とまではまだ断定できません。ここは区別すべきです。



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1 何が発見されたのか
フランス南西部のBruniquel Caveでは、入口から約336 m入った洞窟の奥に、折った石筍(stalagmite) それを運搬して配置したもの 円形・楕円形に並べた構造 二重・多重の列 支えとして配置された石筍 火によって赤黒く変色した部分 焼けた骨 などが確認されています。
最大のものは5~6 m程度あります。約400個の石筍片を使い、総重量は2.1~2.4トンと推定されています。そしてU-Th年代測定によって、176.5 ± 2.1 ka(約17万6500年前)とされています。Nature論文は、この年代と構造の形態から、これを初期ネアンデルタール人による構築物としています。したがって、ここは先生の問題設定にとって極めて重要です。
2 しかし「住居」ではない
ここが一番重要です。先生がおっしゃる、「洞窟の中に直径6~7mの空間をつくる必要があるのか?」という疑問は、その通りです。この円形構造は、雨露を防ぐためのシェルターではありません。なぜなら、そもそも洞窟の内部にあるからです。しかも2026年の研究によって、当時の洞窟入口は現在とは異なり、高さ2 m未満程度の比較的小さな入口で、内部はかなり早い段階で暗くなっていたことが3D復元されています。つまり、ネアンデルタール人は単に「洞窟に入った」のではなく、人工照明(火)を必要とするほど奥深くまで入っていた可能性が高い。2026年研究の重要性は、新しい石組みを発見したことではありません。
洞窟入口の地形形成を、3D測量 地形・地質調査 電気比抵抗探査 U系列年代測定 などから再構成し、洞窟がどのような状態だったときにネアンデルタール人が奥まで到達できたのかを明らかにしたことです。洞窟は約14.29万年前以前に閉塞したとされています。したがって、2026年研究を踏まえると、むしろ、ネアンデルタール人は暗黒の地下空間を、意図的・組織的に「利用可能な空間」へ変えていたということが一層はっきりしてきます。
3 ではブルニケルは「建築」なのか
私は、ここは三段階に分けるべきだと思います。
| 段階 | ブルニケル |
| 自然環境をそのまま利用する | × |
| 自然空間を人工的に組織・改変する | ○ |
| 雨風を防ぐ住居=シェルターを建てる | まだ証明されない |
| 独立した建築空間を建設する | まだ証明されない |
つまり、「建築ではない」ではなく、「住居建築とはまだ言えない」というのが一番正確でしょう。そしてここが先生の議論にとって面白いところです。ブルニケルが証明しているのは、人間は自然空間を単に利用するだけではなく、自然空間を「構成された空間」に変えることができるということです。Natureの論文も、構造物をつくるためには、石筍の選択・採取・運搬・分類・配置という作業系列があり、あらかじめ計画された共同作業を想定しています。約400個、2トン以上の材料を洞窟奥336 mまで運んで配置したわけですから、かなり高度な空間的・社会的組織化です。しかし、その目的はまだわからない。祭祀的だったのか、火を扱う場所だったのか、何らかの技術的用途だったのか、あるいは別の用途だったのか、確定していません。ですから、先生の「建築=シェルター」という定義からすれば、ブルニケルは「建築以前」ないし「建築能力の一部を示すもの」と位置づけるのがよいと思います。
Q1-2 オルドヴァイの「風よけ」はどうなのか
こちらは先生の定義に、ブルニケルよりずっと近い。問題になるのはタンザニアのOlduvai Gorge、DK(Douglas Korongo)siteです。ここでは古い地表面上に石のリング状配置が発見されています。Mary Leakeyはこれを、shelterの基礎、あるいは風よけとして解釈しました。つまり、石を円状に置き、その石に植物の枝などを立てかける。そうすれば、
枝・草・葉
/ ̄ ̄\
/ \
/ \
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
石のリング
という簡単なシェルターを構成できます。
実際、Olduvai研究資料では、DKの石のリングを、windbreak あるいは植物の支柱を固定する基礎として解釈し、現代アフリカの移動民の草葺きシェルターとの比較が提示されています。ただし、ここには非常に大きな注意点があります。
DKの石のリングは確定的な建築遺構ではありません。
Leakeyは住居・風よけと解釈しましたが、その後の研究では、自然形成ではないか
という反論もあります。実際、後の研究にも、Leakey (1971) interpreted the stone circle as a shelter built by hominins, while other researchers argue that it is a natural formation.という対立が記録されています。したがって、「170万年前の建築が発見された」と断言するのは危険です。ここはブルニケルより証拠が弱い。しかし、ここからが重要です。先生の議論では、むしろ、DKのような「風よけ」が本当に存在したとすれば、それはブルニケルより「建築の起源」に近いと思います。なぜなら、自然の洞窟を利用するのではなく、自然の材料を利用して、自然には存在しなかった「内/外」をつくるからです。これは先生が言われる「人工的に空間を創り出す」に非常に近い。
Q2 では「巣」と「住居」は何が違うのか
ここは先生の指摘にかなり賛成です。私なら、前回より明確にこう整理します。
チンパンジー
巣=sleeping platformです。チンパンジーは毎晩、樹上に枝を曲げ、折り、編み込んで寝床をつくります。しかも重要なのは、完全な「遺伝的プログラム」ではありません。
若いチンパンジーは母親などを観察し、練習しながら巣づくりの技術を習得します。巣づくりには、樹種・枝の強度・位置などを選択する判断も含まれます。したがって、
「遺伝子によって完全にプログラムされた行動」という前回の説明は不正確でした。
正確には、遺伝的に強く準備された行動傾向+発達+観察学習+経験です。
では、チンパンジーの巣は住居なのか?
ここは言葉の定義の問題です。広義には、もちろん「住居的機能」を持っています。夜間の身体を、地面から離す,捕食者から守る,安定した睡眠場所をつくる,という意味で、立派なシェルターです。実際、チンパンジーの巣は長期間残存し、同じ場所が繰り返し使われることもあります。タンザニアのIssa地域では20か月で5,354個もの巣が記録され、特定の場所に集中することも確認されています。したがって、「チンパンジーは住居をつくらない」と単純に言うのも正確ではありません。
ただし、先生の「定住/移動」という問題は非常に重要です
ここは、巣=住居を考える際の重要な違いです。チンパンジーの場合、個体が生活する場所→毎日移動→夜ごとに睡眠場所をつくる→翌日には採食空間へ移動,という生活形態です。つまり、「生活圏」はありますが、「一つの場所に生活空間を構築する」という意味での住居性は弱い。ここがホモ・サピエンスとの大きな違いになり得ます。
そして、ホモ・サピエンスの「住居」はもっと古い
ここで非常に重要なのがOhalo IIです。イスラエル、ガリラヤ湖畔のOhalo IIでは、約23,000年前の狩猟採集民のキャンプから、6棟の楕円形ブラッシュ・ハット,焚き火,作業場所,寝床,植物資料,魚・動物骨,石器,などが極めて良好な状態で残っています。



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ここは先生のいう「建築」にかなり近い。なぜなら、単に寝床をつくったのではなく、「内部空間」を組織しているからです。
例えば、中央=炉,周囲=作業場所,壁際=睡眠場所,という内部空間の分節が認められます。これは非常に重要です。つまり、巣 → シェルター → 住居 → 内部空間の分節という段階を考えることができる。
さらに重要なのは「定住=農耕」ではないこと
ここも先生がおっしゃる「定住革命か農耕革命か」という問題につながります。現在では、農耕 → 定住という単純な一方向モデルはかなり修正されています。Ohalo IIは約23,000年前ですから、農耕よりはるか以前。しかも、植物・魚・動物を利用する狩猟採集民が、かなり組織化された住居をつくっていた。さらに約20,000年前のヨルダンのKharaneh IVでも、複数の小屋と長期間の反復利用が確認されています。これは農耕社会以前です。したがって、狩猟採集民=移動民=住居を持たないではありません。
むしろ、移動性の程度と住居の存在は別の変数なのです。これは先生の議論にとってかなり重要だと思います。
Q3 では動物の巣は「遺伝子にプログラムされている」のか
ここは、先ほども触れましたが、**「YesでもありNoでもある」**が正確です。動物の建築行動を、遺伝子が「この形の巣をつくれ」と設計図を直接書いていると考えるのは間違いです。遺伝子が直接、「枝を17本取って、30度の角度で組み合わせよ」と指示しているわけではありません。
実際には4つが組み合わさっています
動物の構築行動は大まかに、①遺伝的素因+②発達過程+③感覚・環境への反応+④学習・経験によって形成されます。例えば鳥なら、「巣をつくる」という行動傾向自体には強い遺伝的基盤があります。しかし、どこにつくるか,何を材料にするか,材料の状態 ,捕食者,気候,他個体との競争などによって、実際の巣は変化します。チンパンジーでは、このことがさらに明瞭です。幼若個体は母親などを観察し、練習することで巣づくり能力を発達させます。
では「動物は新しい建築形式をつくらない」は正しいか
ここも少し修正する必要があります。「まったく新しい形式をつくらない」も言い過ぎです。動物にも、材料選択 ,場所選択,個体差,学習,環境適応,行動の革新,があります。ですから、動物の巣にもかなりの「可変性」があります。しかし、先生が考えている問題は、その先でしょう。
人間と動物の決定的な違いは「累積的な人工環境」ではないか
私は、ここに先生の議論の核心があると思います。動物にも、環境を変える能力があります。ビーバーなら川の流れそのものを変える。鳥なら三次元構造物をつくる。チンパンジーなら樹上に寝床をつくる。したがって、「環境を改変する能力」そのものは、人間固有ではありません。ところがホモ・サピエンスでは、個体の行動→他者への伝達→模倣・学習→改良→次世代への伝達→さらに改良→集団として共有される形式という累積文化が成立します。これが極めて重要です。
ここまでをQ1~Q3について整理すると
先生の「建築の起源」を考えるためには、私は次のような系列に組み替えるのがよいと思います。
① 動物の巣:身体を直接保護する「寝床」。→② 初期ヒト科のシェルター→枝・草・石などによって、雨・風・寒暑を部分的に制御する。→③ 自然空間の人工的組織化洞窟・岩陰などを単に利用するだけでなく、内部を人工的に分節・構成する。→ ブルニケル→④ 独立したシェルター 自然の洞窟ではなく、枝・草・木・皮・石などによって「屋根+壁+床」を構成する。→⑤ 住居 単なるシェルターではなく、睡眠・食事・仕事・火・収納・家族などの活動を空間的に組織する。→ Ohalo IIが非常に重要→⑥ 集落 複数の住居を相互に配置し、共有空間をつくる。→⑦ 村落→⑧ 都市
そして、先生の最初の問題、家族―共同体―都市―国家の起源に戻ると、ここで非常に面白い問題が出てきます。つまり、
「共同体」は言語や血縁から始まったのか、それとも「共に住む空間」から始まったのか。さらに言えば、
「住居」は個人・家族のための空間なのか、それとも最初から共同作業によってつくられる社会的空間なのか。
ブルニケルは後者を考えるうえで非常に重要です。住居ではないにもかかわらず、2トン以上の石材を集団で運び、暗黒の洞窟内に計画的な構造をつくっている。
つまり、ここにはすでに、「空間の構想」+「共同作業」+「役割分担」+「共有された目的」がある可能性がある。Nature論文自身も、この建設には作業の分配と事前の計画を必要とする「collective project」が示唆されるとしています。
ここから先は、先生が最初に提示された
発声・ジェスチャー → 意図共有 → 記号 → 言語 → 概念 → 物語 → 規範 → 制度 → 共同体 → 都市 という系列に、もう一つ、
環境利用 → 巣 → シェルター → 住居 → 内部空間 → 集落 → 都市
という**「空間の進化系列」**を重ねられると思います。
この二つがどこで交差するのか――つまり、「言語・象徴・共同作業」と「建築・住居・集落」がいつ結びついたのか――が、先生の「コモンズ/コミュニティ/コミューン」の起源論へつながる、かなり本質的な問題だと思います。
ちょっとすっきりしましたが、ミツバチの巣が6角グリッドというのは物理的な理由がありますよね。それは、ミツバチが地球の自然に対応して進化したという理解ですか?また考えて応答します。
はい、その理解でよいと思います。ただし、少しだけ正確にすると面白くなります。
ミツバチの六角形は、「六角形をつくるよう遺伝的に設計されている」というより、進化したミツバチの行動と物理法則・材料特性・自然環境との相互作用の結果として、六角形が極めて合理的な解になっている、と考えるのがよいでしょう。
六角形には少なくとも三つの物理的理由があります。
- 平面を隙間なく埋められる
正三角形・正方形・正六角形は単独で平面を充填できますが、六角形は同じ面積を囲む場合、三角形や四角形より周長が短くなります。つまり、同じ量の蜜・幼虫の空間をつくるのに必要な巣材(蜜蝋)が少なくて済む。 - 円筒に近い貯蔵空間を、共有壁で効率よく並べられる
一つ一つの育房は、個別の「部屋」でありながら隣の部屋と壁を共有できます。 - 蜜蝋という材料に適している
ミツバチは蜜蝋を分泌して巣をつくります。加熱・軟化した材料を、多数の個体が連続的に付加していくと、六角形の規則的なセル構造が形成されます。
ですから、先生がおっしゃる
「ミツバチが地球の自然に対応して進化した」という表現は、かなり本質を突いています。ただし、私はここにもう一段階加えたいです。
「自然に適応した」のはミツバチだけではない
六角形は、ミツバチが発明した幾何学ではありません。
物理法則 → 材料 → 生物の身体 → 行動 → 進化
という連鎖があります。ミツバチは「六角形が数学的に最適だから」と考えて設計しているわけではありません。自然選択によって、六角形に近い効率的な巣を結果として形成する行動をもつ系統が残ったと考える方が適切です。
そして、ここが先生の「建築」の議論にとって非常に重要だと思います。ミツバチの巣も「空間」です。しかも高度に組織された人工環境です。
しかし、ミツバチが六角形を概念として表象している→六角形という形式を意図的に選択している→それを別の形式へ抽象的に変換しているとは、現在のところ言えません。
一方、人間は、六角形を認識する→ 六角形という概念を共有する→ 図面に描く
→ 「もっと大きな六角形」「正六角形から変形した平面」などを考える→ 他人に教える→ 次世代がさらに改良することができる。
ここに、先ほどの話に出てきた**「動物の構築」と「人間の建築」の境界**が見えてくるのではないでしょうか。
つまり、動物も空間をつくる。しかし人間は、空間を「対象化」してつくる。この「対象化」「表象」「共有」「累積」というところをどう定義するかが、先生のいう建築能力の人類学的起源を考えるうえで、かなり重要になりそうです。また考えられてからで結構です。次に続けましょう。

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