家族—共同体―都市-国家の起源 03 最古の住居

最古の住居

布野修司

 家族—共同体―都市-国家の起源 その④

最古の住居

Shuji Funo これまでのやりとりは添付します。

Q1 まず、補足質問です。

 Q1-1 オルドヴァイ渓谷のリングの写真あるいは図面示していただけますか?風除けの上部構造について、枝・草・葉なの化石?とかそれなりの痕跡は発掘されているんですか。シェルターというのは「覆い」ですので屋根が決定的です。

 Q1-2 イスラエル、ガリラヤ湖畔のOhalo II(約23,000年前)以前の以降はありませんか?最古ですか?

 Q1-3 昆虫(ミツバチ,蟻,蜘蛛・・・)、甲殻類などの巣作りに関わる遺伝子については研究はありますか?

 Q2 聞き忘れていたんですが,洞窟画の最古のもの、また、地域的分布について教えて下さい。

 Q3 狩猟生活を開始したホモ・サピエンスの集団(家族、バンド,部族、氏族・・・)形成について整理してもらえますか?

    チンパンジーなど他の類人猿との比較もお願いします。

ChatGPT 添付資料では、前回までに「巣→シェルター→住居→内部空間→集落」という系列を提示していました。以下では、それを今回の研究成果で補強・修正します。

Q1 最初期のシェルターについて

Q1-1 Olduvai DKの「リング」は本当にシェルターか?

まず実物・図面です。

円形の石の構造を示す図、中心に平らな四角形があり、周囲には不均一な石が配置されている。

https://images.openai.com/static-rsc-4/9lXWOQJkitX1Uw5AE7OOxmDpksY0NaoqVWMrQxhivT9daHSd7V4_2tpDBB4M9DTdRWoxkYefArGP51yLPNfG68QBNnTfITpkfat9aDMKL6WdK3XX3_mpgEt41GospaJGNtXP1HwXe_wmrcIAUC3QlY6-7Utb4jBrc2iSAmBwI49L_I_e3Vo7hqpdPE7yIY6u?purpose=fullsize

考古学的な測定図で、石や構造物の配置が示されている。右下にはドーム状の構造の断面図がある。
原始的な住居の風景、左から順に干し草の小屋、木製のドーム型小屋、柱で作られた小屋が描かれている。数体の人間が周囲を歩いている。

これはタンザニア、Olduvai Gorge の DK(Douglas Korongo)site、Bed I にある石のリングです。年代は現在おおむね 1.88–1.85 Ma(188~185万年前) とされています。直径は資料によって約4~5 m程度です。Mary Leakey はこれを「living floor」に伴う構造と解釈し、石を風よけ、あるいは枝を立てるための基礎と考えました。

しかし、ここで先生の指摘が非常に重要です。

「屋根の証拠」はあるのか?

現状では、ありません。少なくとも、枝そのもの,、木材の柱 ,葉,草 ,葦などの屋根材 ,屋根を固定した痕跡,柱穴 といったものが、「このリングの上に屋根があった」と直接証明できる形では残っていません。

DKで確認されている植物資料は、環境復元のための phytolith(植物珪酸体)などで、草、スゲ類、樹木・低木などが周辺環境に存在したことを示します。また、古い報告には papyrus の根茎らしき化石もあります。しかし、これは屋根材として使用された植物の遺物ではありません。したがって、石のリング→枝を立てた→枝を曲げた→草・葉・皮などで覆った→屋根付きシェルターというのは、Leakeyによる復元仮説です。実際、Mary Leakey は現代アフリカの遊動民の石組みとの類似から、石を「windbreak」または枝を支える基礎と考えました。一方、その後の研究では、自然形成の可能性も指摘されています。DKの石のリングが自然形成ではないかという議論は現在も重要です。

したがって、先生の「屋根が決定的」という指摘を入れると私はDKを次のように評価するのが一番慎重だと思います。

証拠評価
石が円形に並ぶ
人為的配置の可能性○~△
風よけだった可能性○~△
枝・柱を支えた可能性
枝・草などの屋根材未確認
屋根付きシェルター未証明
独立した住居未証明

つまり、「Olduvaiに170~180万年前の建築があった」と書くのは危険です。むしろ、「約180万年前、初期人類が人工的な空間境界をつくった可能性を示す石組みがある。しかし、それが屋根付きシェルターであったことは証明されていない」とするのが現在の証拠に即しています。この点は、添付資料で前回述べた「DKは先生のいう建築に近い」という評価を、さらに厳密にした方がよいでしょう。

Q1-2 ではOhalo IIは最古なのか?

いいえ。ここも非常に重要です。Ohalo II(約23,000年前)は、「非常によく保存された、屋根を持つブラッシュ・ハットの内部空間を具体的に復元できる最古級の非常に重要な例」であって、「人類史上最古のシェルター」ではありません。Ohalo IIでは6棟のbrush hutsについて、壁を構成した植物、床、炉、作業場所、寝床などが非常によく残っています。草の寝床まで保存されている。そして先生が重視されている「屋根」に関しても、Ohalo IIは重要ですが、屋根そのものが完全に残っているわけではありません。植物遺存、壁の輪郭、構造配置などからbrush hutを復元できるということです。

ところが、Ohalo IIよりはるかに古い「構築物」がある。

特に重要なのが、Kalambo Falls(ザンビア)約476,000年前です。2023年のNature論文で、少なくとも 476 ± 23 ka の木材構造が報告されました。2本の丸太を横方向に組み合わせ、一方の丸太に意図的に切り込みを入れて、もう一方をそこにはめ込んでいます。これは単なる「木の棒」ではなく、木材を加工して、複数の部材を接合した構造物です。ただし、ここにも重要な限定があります。これは「住居の屋根」であるとは証明されていません。研究者は、platform,walkway,foundation,dwelling-related structure ,などの可能性を議論しています。したがって、先生の「建築=シェルター」という定義に限定すると、Kalamboも「建築の証拠」ではあるが、「屋根付き住居」の証明ではないということになります。

さらに古い「住居」候補は?

ヨーロッパでは、Terra Amata:約40万年前,Bilzingsleben:約35~40万年前,Grotte du Lazaret:約15~17万年前,などが「小屋」「住居」として解釈されてきました。しかし、ここはかなり慎重に扱う必要があります。特に Terra Amata は、かつては約38万年前の小屋・屋根構造の代表例として紹介されましたが、後のタフォノミー研究によって、その「小屋」解釈そのものが強く批判されています。現在は、確実な建築遺構として扱うべきではありません。Bilzingslebenについても、円形の石・骨などを小屋として解釈する説がある一方、自然形成や樹木の周囲に形成された活動痕跡として説明できるという批判があります。ここまでを年代順に並べると面白い

年代遺跡何が確認できるか「屋根付き住居」
約188–185万年前Olduvai DK石のリング未証明
約78万年前以前Gesher Benot Ya’aqov木材利用住居ではない
約47.6万年前Kalambo Falls接合された木材構造未証明
約40万年前Terra Amata小屋説論争あり
約35–40万年前Bilzingsleben小屋説論争あり
約17.6万年前Bruniquel石筍構造屋根なし・洞窟内部
約7.7万年前Sibudu植物製寝床自然岩陰
約5~4万年前Neanderthal sites植物繊維・空間利用一部可能性
約2.3万年前Ohalo IIbrush huts、壁、床、炉、寝床かなり確実

つまり、Ohalo IIの重要性は「最初」ではなく「保存状態」です。これは先生の問題設定にはむしろ都合がいいと思います。

「屋根のある住居」がいつ発明されたかと、**「住居を構成したことが考古学的に証明できる最古例」**とは、分けなければならない。そして現在の証拠では、前者についてはまだかなり不確実です。

Q1-3 昆虫・蜘蛛・甲殻類の「巣作り遺伝子」は?

これは前回の「遺伝子にプログラムされている」という表現を、さらに修正した方がいいです。「巣の設計図を持つ遺伝子」があるわけではありません。現在の研究では、遺伝的素因+ 発生・神経系+ 感覚入力+ 環境+ 個体の行動+ 他個体との相互作用→ 巣という理解です。

たとえばアリでは、巣の形は遺伝だけで決まりません。温度、湿度、CO₂、土壌、餌の取り方などに対する個体の反応が多数集積して、全体として巨大な構造が形成されます。これを self-organization / stigmergy という枠組みで研究しています。しかも2026年の最新レビューでは、ハキリアリの巣形成について、作業個体が土壌の温度・湿度・CO₂などの局所情報に反応し、その結果として菌園に適した環境が自己組織的に形成されることが整理されています。したがって、遺伝子 → 巣の形ではなく、遺伝子 → 神経・感覚・行動規則 → 環境との相互作用 → 集団行動 → 巣と考えるべきです。これは先生が前回指摘された、「ミツバチが地球の自然に対応して進化した」という考え方にかなり近い。そしてこれは人間の建築との比較に非常に面白い問題になります。ミツバチやアリにも、環境 → 身体 → 行動 → 空間という関係があります。人間ではそこにさらに、表象 → 言語 → 計画 → 他者との共有 → 記憶 → 改良 → 次世代への伝承が加わる。この違いはかなり重要です。

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