家族—共同体―都市-国家の起源 08 採集狩猟民の集団単位 

採集狩猟民の集団単位

布野修司

 家族—共同体―都市-国家の起源 その⑦

Shuji Funo

ホモ・サピエンスの出現,形成,拡散についてはおよそ整理できました。しかしそれにしても,チャッピー君の整理,文字だけで,以下のような図を書いてくれたのはびっくりしました。最初の質問(ホモ・サピエンスの遺伝子)をBlogにUPしようとしてアイキャッチ画像をチャッピー君に頼んだら下のような図を描いてくれました。

 ひとつだけ言っておきますが,わたしが「人口環境化」という時にイメージしているのは産業革命以降のことですよ。わかりやすくイメージしているのは、超高層建築やドーム球場です。空調設備によって人工的に生活環境を調整する事態です。遡れば,地球を改変するという意味では農耕革命が起点になると思いますが、ホモ・サピエンスは1万年ほどでち地球環境を変えるまでに至ったということです。 

人類の世界への拡散を示す地図。主にルートと年代を表し、アフリカ、アジア、オセアニア、アメリカへの移動経路や時期を示す。
ネアンデルタール、デニソワ人、ホモ・サピエンスの違いに関する図解

本題に入ります。

実は,ホモ・サピエンスが各地でどういう住居を建てたかについて確認したいという誘惑に駆られていますが、これはのちの楽しみにしておきます。Q

 ホモ・サピエンスが出現・形成される過程,採集狩猟をしていた時代,農耕革命以前の集団について確認したいと思います。農耕革命と言っても,比較的長い時間をかけたプロセスだったと思っています。

 先走って質問したのですが,移動の問題と絡んで混乱していますので,まず確認します。

Q1 日常的な生活単位 20~50人程度の小集団,しかし、社会的ネットワークは、100~200人程度、あるいはそれ以上に広がっていた可能性がある。現代の狩猟採集民研究では、大きなcommunity→いくつかのliving groups→家族・親族単位→というfission–fusion(離合集散)型が重要だということですが,原初においてはどういうプロセス日常的な生活単位が形成されたと考えられてきたのでしょうか?

 Q2 「家族→バンド→部族→氏族」という直線的進化を避けるべきである、「移動単位」と「社会単位」は違うということは了解しますが、家族という単位は成立しませんか?現代の採集狩猟民の場合,家族はどう位置づけられているんですか?

Q3 日常的な生活単位にいくつかの類型は考えられていないのですか? 魚を獲る,木の実を採る,動物を採るなどで違いはありませんか?

Q4 人間に特徴的なのは、集団間を結びつける能力で、婚姻 贈与 食物分配 相互扶助 儀礼 言語 神話・物語 記憶 共有された場所 規範 などということですが,それぞれそれを裏づける事例と議論を教えてください。20~50人程度の小集団を裏付ける意向をさらにNature, Science当たってみてくれますか?

ChatGPT

はい。今回の整理では、かなり重要な点が一つあります。先生のいう**「人口環境化」=産業革命以後、とくに空調・照明・構造技術などによって、人間が生活環境そのものを人工的に制御すること**、という意味は明確に区別しておいた方がよいと思います。

そのうえで、今回のQ1〜Q4についてNature / Nature Human Behaviour / Nature Communications / Scientific Reportsまで当たると、かなり面白い像が見えてきます。

結論を先に言えば、

ホモ・サピエンスの原初的な社会を「家族→バンド→部族」という階層的な段階として考えるより、〈家族・世帯〉を含む20〜30人前後の流動的な居住集団が、婚姻・贈与・食物分配・友情・儀礼・物語などによって、さらに広い社会的ネットワークへ接続されていた、と考える方が現在の研究には適合します。

そして「20〜50人」という数字については、現生狩猟採集民にはかなり強い実証がありますが、それを30万年前のホモ・サピエンスにそのまま投影することはできない、というのが重要な留保です。

1 まずQ1――「20〜50人」という数字はどこまで確かか

ここは、先生の仮説をかなり強く支える研究があります。とくに重要なのが、タンザニアのハッザ(Hadza)を対象とした研究です。Nature の Apicella et al. (2012) は、ハッザの社会ネットワークを実測しています。

Coren L. Apicella et al., “Social networks and cooperation in hunter-gatherers,” Nature 481, 497–501 (2012).

 (Shuji Funo Nature要約 タンザニア北部のハザ・ブッシュマンは、現代の先進世界からほぼ完全に切り離されており、人類学者にとって初期の狩猟採集社会の有用なモデルを提供しています。ハザの社会ネットワークの相互結びつきや協力傾向を定量化した研究では、推移性や同質性といった近代化されたネットワークの主な特徴がハザに見られることが示されています。さらに、公共財の狩猟提供が似ている個人間で社会的結びつきが生まれやすく、ハザキャンプでは協力においてグループ間で大きなばらつきが見られ、グループ内でも低い変動が見られます。これらの結果を総合すると、人間ネットワークのこれらの主要な特徴が共通の祖先を反映し、人類の歴史の初期に発展した可能性を示す最も強力な証拠となっています。)

この研究は、単に「狩猟採集民は30人くらい」という民族誌的記述ではなく、実際に人と人との社会的関係をネットワークとして測定したものです。ハッザでは、居住するキャンプの内部だけでなく、キャンプを越えて社会的関係が形成されていることが示されました。さらに近年の研究を見ると、ハッザのキャンプ:約20〜30人 平均:約30人 成人だけを数えると平均19人程度という調査もある キャンプ構成員は固定されず、出入りする 一年間の間にかなり広い範囲の人々と接触するという実態が確認されています。つまり、20〜50人=一つの「民族集団」ではなく、20〜30人程度=その時点で一緒に暮らしているco-residential groupと考えるのが適切です。これは先生が言われる「日常的な生活単位」にかなり近い。

2 ただし「20〜50人」はホモ・サピエンスそのものの直接証拠ではない

ここはかなり慎重にしておきたいところです。30万年前のホモ・サピエンスの「キャンプ」を実測することはできません。したがって、「ホモ・サピエンスは20〜50人で暮らしていた」と断定することはできません。現在できるのは、現生狩猟採集民の社会構造 考古学的な居住遺跡 人類学・霊長類学的な社会集団モデル 人口学・生態学モデル を組み合わせて、更新世のホモ・サピエンスにも、比較的小規模で流動的な居住集団と、それを超える社会的ネットワークが存在した可能性が高いと推論することです。

実際、最近の研究でも「25人程度のband」を想定した古人類人口モデルがありますが、研究者自身がこの多層的なbandモデルの先史時代への適用には議論があると明記しています。ですから、先生の文章では、「20〜50人程度の小集団が形成されていたと考えるのが有力である」くらいにしておくのがよいと思います。

3 そして面白いのは「20〜30人」が固定した集団ではないこと

ここが今回一番重要ではないでしょうか。ハッザでは、キャンプが約20〜30人で構成されますが、そのメンバーは固定されません。ある研究では、キャンプは約20〜30人で、通常2〜3個程度の核家族を含むとされています。そしてキャンプは6〜8週間程度で移動し、個人は別のキャンプへ自由に移ることができます。つまり、家族 → バンドという固定的な「入れ子構造」ではありません。むしろ、

家族・親族→その時一緒に暮らす人々→別のキャンプの親族・友人→さらに広い社会的ネットワーク→が重なっている。私は今回、先生の議論にはこの図式の方が合うと思います。

4 Q2――では「家族」は成立しないのか?

いや、成立します。ここは前回までの説明で少し強調しすぎていたかもしれません。「家族→バンド」という社会進化の段階論を否定することと、「家族が存在しない」ということは全く別です。現代の狩猟採集民を見ると、むしろ、核家族・世帯は非常に重要な単位です。ただし、家族=独立した生活単位ではありません。例えばアグタ(Agta)では、bilateral descent(父系・母系の双方を重視する親族関係)と柔軟な居住制度によって、大きな親族ネットワークが形成されています。核家族が一つのキャンプに固定されるのではなく、食料や人間関係によって複数のキャンプを移動することもあります。研究では、核家族が一つの地域内で3〜5個のキャンプの間を移動する例が報告されています。したがって、家族は「社会の最小単位」ではあるが、「社会の最大単位」ではない。という言い方ができると思います。

 (Shuji Funo Agtaはフィリピンのルソン島東部太平洋岸に住む狩猟採集民で、シエラマドレ山脈に分布しています。彼らは約9000人の人口を持ち、黒褐色の肌、低い身長、縮れた頭髪などのネグロイド系人種の特徴を持っています。Agtaの言語はオーストロネシア語族に属し、他のネグロイド系民族の言語と最も近い類縁関係をもっています。Agta社会は親族関係にある5~7つの核家族から成る集落を基本単位としており、家屋は簡単な差し掛け小屋や小さな高床住居です。)

これは先生の「家族—共同体—都市—国家」というテーマには非常に重要です。

5 むしろ「家族を超える」ことがホモ・サピエンスの特徴だった

ここで非常に面白いNature Human Behaviourの研究があります。

Migliano et al. “Characterization of hunter-gatherer networks and implications for cumulative culture”です。

AgtaとBaYakaを対象に、ウェアラブルなセンサーを使って、誰と誰がどれくらい近接しているかを測定しました。結果は非常に興味深い。家族・親族だけでネットワークが構成されているわけではない。むしろ、血縁関係のない「友人」同士の強い結びつきが、異なる家族を結びつけている。そして、こうした非親族間の関係が、情報交換や文化伝達の効率を高めている可能性がある、と論じています。これは先生のQ4に直結します。

6 Q3――生活単位は「魚・木の実・動物」で違うのか

違います。かなり違います。ここは「狩猟採集民」という一語で括ると見えなくなるところです。たとえば、

① 大型動物狩猟型

大型動物は、捕獲が不確実 一人では処理できない 大量の肉を短時間で消費できない 保存技術が乏しい ので、狩猟者 → 家族ではなく、狩猟者 → キャンプ全体への分配が合理的になります。ハッザでは、大型獲物の肉がキャンプ内で広く分配されます。

② 植物採集型

植物・根茎・果実などは、分散している 採取量が比較的予測可能 女性や子どもも参加できる 日常的な食料になる という特徴があります。ハッザでは、女性の植物採集が重要な食料供給を担っています。

③ 漁撈型

これはまた違います。Agtaの場合、河川・海岸・サンゴ礁などの環境を利用し、fishing + hunting + gatheringという複合型になっています。研究ではAgtaの動物性蛋白質について、河川・海洋での漁撈が主要な役割を持つことが報告されています。

④ 蜂蜜・大型動物など「高価値・不確実資源」

これも重要です。不確実な資源ほど、「当たった人が独占する」より、「当たった人がキャンプ全体に分配する」方が、長期的には集団の生存を安定させる。Nature Communicationsの研究は、この「demand sharing(要求に応じた分配)」と移動性の関係をモデル化しています。高品質だが不確実な資源を利用する場合、食物共有と移動性が相互に結びついている可能性が示されています。ここから、

生態環境 → 食料獲得方式 → 移動方式 → 居住集団 → 食物分配 → 社会関係という連鎖が見えてきます。これはかなり重要な論点だと思います。

7 Q4――では、何が「家族を超えた集団」を作ったのか

ここが今回の核心でしょう。先生が挙げられた婚姻 贈与 食物分配 相互扶助 儀礼 言語 神話・物語 記憶 共有された場所 規範 は、かなりよく整理されています。ただし、それぞれの証拠の強さは同じではありません。

7-1 食物分配――もっとも強い証拠の一つ

これは非常に強い。狩猟採集民では、食物を獲得した個人・家族と、食物を消費する集団が一致しないことが重要です。Mbendjele BaYakaでは、平均して世帯の生産物のかなりの部分が世帯外の人々にも分配されています。また、ハッザではキャンプに持ち帰った食物、とりわけ肉が広く共有されます。これは、「私の家族の食料」から「われわれの食料」へという社会的転換を意味します。

8 婚姻――家族を「外部」に開く

婚姻はさらに重要です。家族が閉じた単位なら、父母+子だけで完結します。ところが婚姻によって、家族A ↔ 家族Bが結ばれる。しかも婚姻相手は通常、同一の核家族ではありません。したがって婚姻は、生物学的な血縁ネットワークを、社会的ネットワークへ変換する仕組みになります。Agtaについても、bilateralな親族関係と柔軟な居住制度が、大きな親族ネットワークを形成していることが報告されています。これは「家族→共同体」を考えるときにかなり重要です。

9 友情――実は婚姻以上に面白い

Nature Human Behaviourの研究が示した、非親族のfriendshipが異なる家族を結びつけるという点は、先生の議論に非常に使えると思います。つまり社会関係は、血縁だけではない。むしろ、kinship + marriage + friendship + cooperationが重なっている。これによって、家族A→家族B→家族Cというネットワークができます。この「家族を横断するネットワーク」こそ、後のcommunityを考える上で重要なのではないでしょうか。

10 物語――これは今回かなり面白い発見です

先生が挙げた「神話・物語」は、かなり強い実証研究があります。Agtaを対象にした2017年のNature Communications論文、Daniel Smith et al., “Cooperation and the evolution of hunter-gatherer storytelling,” Nature Communications 8, 1853 (2017)です。これは非常に面白い研究です。Agtaの89の物語を調べたところ、およそ70%が社会的行動に関係する内容に分類されました。たとえば、協力 男女関係 平等 友情 規範違反 分配 集団への帰属 などです。さらに、優れた語り手が多いキャンプほど、実験上の協力行動が高いという関連も確認されています。著者たちは、物語が単なる娯楽ではなく、「皆がどう行動するべきか」を共有する装置だった可能性を論じています。これは先生の言語 → 神話・物語 → 記憶 → 規範という線にかなり近い。

11 しかも「物語」は記憶を個人の外に置く

ここからは少し私の整理ですが、先生のテーマにかなり重要だと思います。個人の記憶は、「私が覚えている」だけです。しかし物語になると、「われわれが覚えている」になる。さらに、「祖先がこうした」「この場所ではこうする」「この動物はこうである」「この場合にはこう分配する」という形になる。すると記憶が、個人 → 集団へ移ります。そしてその集団記憶が、規範になります。この意味で、言語・物語・記憶・規範は、社会を物理的な同居集団以上に拡張する技術と考えることができます。これは先生の「コミュニティ」の議論につながる非常に重要なポイントではないでしょうか。

12 儀礼も同じです

BaYakaの研究では、子どもたちが大人の森林霊儀礼を遊びの中で模倣することが観察されています。女性たちの歌、手拍子、男性による儀礼準備、踊りなどを子どもたちが模倣する。つまり、儀礼 → 身体 → 模倣 → 子ども → 次世代という文化伝達が成立しています。ここでは言語だけではありません。身体そのものが記憶媒体になる。これは先生が以前からおっしゃっている「身体知」「建築技術の身体化」ともつながりそうです。

13 共有された場所――これは次に掘る価値がある

ここは今回の文献調査では、食物分配やネットワークほど直接的ではありません。

しかし、camp=一緒に生活する場所が単なる寝場所ではなく、食物を分配する 情報を交換する 子どもを育てる 物語を語る 儀礼を行う 紛争を調整する という社会的インフラになっていることは明確です。Nature Human Behaviourの研究も、狩猟採集民のネットワークが「camp内の近接関係」として形成され、そこに家族だけでなく非親族の強い関係が存在することを示しています。ここから「住居」ではなく、campという共同生活空間を考えることができる。

そしてこれは先生が「建築の起源」に戻るときに、とても面白い論点になると思います。

14 するとQ1〜Q4は、こう整理できる

私は今回、先生の図式を少し修正して、こう描くのがよいと思います。

                 広域社会ネットワーク
          ┌───────────────────┐
          │ 婚姻・交換・友情・贈与・儀礼 │
          │ 言語・物語・規範・共有記憶   │
          └─────────┬─────────┘
                    │
             数十人規模のcamp
          ┌─────────┴─────────┐
          │                     │
       家族・世帯A          家族・世帯B
          │                     │
       家族・世帯C          非親族の友人
          └─────────┬─────────┘
                    │
               個人・親子

そして重要なのは、この構造が

家族
 ↓
バンド
 ↓
部族

という一本の階段ではないことです。

むしろ、

          婚姻
           ↕
家族 ←── 友情 ──→ 家族
 ↓        ↕         ↓
贈与 ←── 食物 ──→ 贈与
 ↓        ↕         ↓
       キャンプ
           ↓
      儀礼・物語
           ↓
     広域ネットワーク

というネットワーク構造です。

15 そして「移動単位」と「社会単位」を分けることが非常に重要

先生がQ1で混乱しているとおっしゃったところですが、私はここを明確に三つに分けると整理しやすいと思います。

① Household / family日常的な最小単位。

② Residential camp

その時、一緒に生活している20〜30人程度の単位。

③ Wider social network

婚姻・親族・友情・交換・儀礼・情報によって結ばれる、キャンプを越えたネットワーク。

そして、①②③の境界は一致しない。

これがポイントです。

16 「100〜200人」という数字について

ここは先生が最初に提示された20〜50人↕100〜200人という二重構造について少し修正した方がよいと思います。20〜30人程度のcampについては、現生狩猟採集民のデータがかなりあります。一方、100〜200人を「一つの社会集団」とすることには、もう少し慎重になる必要があります。NatureのHadza研究では、キャンプ間にも明瞭なネットワークが存在しますが、「100〜200人」という一つの固定された上位集団が存在する、と単純に示したわけではありません。したがって現段階では、20〜30人程度の流動的な居住集団を核として、100人を超える広域的な親族・婚姻・友情・交換・儀礼・情報ネットワークが形成されるくらいにしておくのが安全だと思います。

17 さらに重要なのは「小集団だから文化が単純」ではないこと

これは先生の次の議論に関係すると思います。Natureの研究では、集団サイズが文化的複雑性の維持に関係するという実験結果があります。Derex et al.,

“Experimental evidence for the influence of group size on cultural complexity,” Nature 503, 389–391 (2013)

では、より大きな集団ほど文化的情報の劣化が少なく、既存の技術を改良する可能性も高いことが示されました。これは、小さな生活集団+大きな社会ネットワークという構造が、累積文化を考えるうえで非常に意味を持つことを示唆します。一つのキャンプだけなら、知識が失われる可能性があります。しかし、Aキャンプ ↔ Bキャンプ ↔ Cキャンプと人が移動すれば、文化情報が再導入される。つまり、社会的ネットワークそのものが「文化のバックアップ装置」になる。これは非常に面白いと思います。

18 今回のQ1〜Q4から見えてくる仮説

先生の「家族—共同体—都市—国家」という大きなテーマに引きつけるなら、私は次のように一度まとめてみたいです。ホモ・サピエンスの最初の社会単位は「家族」でも「部族」でもなく、家族を含みながら家族を越えて形成される、流動的な共同生活集団だった。そして、その共同生活集団を成立させたのは、単なる血縁ではなく、食物の共有、婚姻、贈与、相互扶助、友情、儀礼、言語、物語、記憶、規範などによって形成される関係のネットワークだった。さらに、20〜30人程度の居住集団そのものよりも、それらを越えて人々を結びつけるネットワークに、ホモ・サピエンスの社会性の特徴がある。――というところまでなら、現在のNature系の研究によってかなり支えられます。そしてこれは、先生が最初に考えておられた

「人口環境化」とも、意外にきれいにつながる気がします。

すなわち、自然環境   ↓採集・狩猟   ↓小規模な共同生活   ↓食物共有・婚姻・交換   ↓広域ネットワーク   ↓共有記憶・物語・規範   ↓共同体   ↓定住・農耕   ↓都市   ↓国家   ↓産業革命   ↓人工的環境の制御   ↓「人口環境化」   ↓超高層建築・ドーム・空調都市という、先生の問題設定が見えてきます。

特に**「家族を越えて人間を結びつけるものは何だったのか」**という今回のQ4は、次の「共同体」の起源を考える上で核心になると思います。

なお、今回Nature / Nature Human Behaviourまで調べた範囲では、「20〜50人」という数字そのものをホモ・サピエンスの進化史について直接証明するNature/Science論文がある、という状況ではありません。一方、現生狩猟採集民の20〜30人規模のcamp、そこから広がる非親族ネットワーク、食物共有、物語による規範伝達については、かなり具体的な実証があります。ここはBlogでは「確実に分かっていること」と「先史への推論」を分けて書いた方が、むしろ議論が強くなると思います。

今回特に重要な一次文献

  • Apicella, C. L. et al., “Social networks and cooperation in hunter-gatherers,” Nature 481, 497–501, 2012.
  • Migliano, A. B. et al., “Characterization of hunter-gatherer networks and implications for cumulative culture,” Nature Human Behaviour, 2016.
  • Lewis, H. M. et al., “High mobility explains demand sharing and enforced cooperation in egalitarian hunter-gatherers,” Nature Communications 5, 5789, 2014.
  • Smith, D. et al., “Cooperation and the evolution of hunter-gatherer storytelling,” Nature Communications 8, 1853, 2017.
  • Garfield, Z. H. & Lew-Levy, S., “Teaching is associated with the transmission of opaque culture and leadership across 23 egalitarian hunter-gatherer societies,” Nature Communications 16, 3387, 2025.

特に最後の2025年の23社会比較研究は、先生の「言語・記憶・規範・文化の共有」というQ4にかなり近いので、次はこれを軸に、**「家族を越えて何が共有されていたのか」→「共同体はどこから共同体になったのか」**を掘ると、かなり面白いところまで行けると思います。

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